クロノバイオロジ―
- ツキヨミノ

- 9月11日
- 読了時間: 11分

トーマス・エジソンは、みんなの睡眠を台無しにした。─電気の発明者について語るときに、心理学者マイケル・ブリウスが語った言葉。
「たった125年で、5万年かけて築き上げられてきた完璧な生物学的クロノメトリ(時間の調和)は崩れてしまった。わたしたちの生理機能が、テクノロジーほど急速には進化していないと言うのは、もはや世紀の控えめな表現だ。その結果として、わたしたちのいつは、大きく、大きく、遅れてしまっているのだ。」
—『O Poder do Quando(時間の力)』マイケル・ブリウス著
19世紀の科学者であり起業家であったトーマス・エジソンは、発明品を販売するために数十の企業を設立した。その中には、電気の分野で知られるゼネラル・エレクトリック(General Electric)も含まれている。ちなみにこの企業は、ブラジルでも100年以上にわたりエネルギー、医療、航空などの分野で活動している。
問題は、1879年に発明された電気照明が、人の暮らし方や時間との関わり方を根本的に変えてしまったということ。人工の光は、夜間にも活動を続ける自由を人に与えてくれた。けどそれと引き換えに、何千年ものあいだ人類の眠り、目覚め、休息を導いてきた自然のリズムから人を遠ざけてしまった。
エジソンは、睡眠を取らないほうが生産性が上がると信じており、その考えは何十年にもわたって広がり、常に活動し続けることが成功の証と見なされる世界を生み出す一因となった。
心理学者マイケル・ブリウス(Michael Breus)によれば、生体時計にとっての2番目に大きな混乱要因は、交通手段の発展だと言う。車や飛行機などによって、短時間で長距離を移動できるようになったことで、わたしたちのリズムはさらに乱れた。例えば、体が時差1時間の変化に順応するには1日かかると言われており、急激な移動は生体リズムに大きな影響を与える。
科学が語ること
何世紀にもわたり、科学はすべての生物の生体リズムを研究してきた。そして今日、人間が本質的に昼行性の存在であることがわかっている。つまり、人の生理機能は昼間の光の中でより効率的に働くように進化していて、夜には休息と再生のために調整されるようになっているということ。
これは、人の体が日中の決まった時間に、特定の器官に適切な濃度で物質を供給するような仕組みを発達させてきたことを意味する。すべての代謝プロセスは、人の健康を保つために慎重にバランスをとって調整されている。
こうした体内リズムは、地球の自転による太陽への曝露と完全に同期している。したがって、昼と夜の交代が、人間の生体リズムに影響を与える最も主要な外的要因。
「サーカディアン(circadian)」という言葉は、ラテン語の circa diem(約1日)に由来する。このため、人の体内でおよそ24時間の周期で起こる生物学的なサイクルを説明するために使われる言葉となっている。
内と外のリズムと社会のリズム
サンパウロ大学生物医学研究所(Instituto de Ciências Biomédicas da USP)の教授であるルイス・メンナ(Luiz Menna)とダニエラ・ウェイ(Daniela Wey)は、人間には細胞の内部から生じる内因的なリズム(内的リズム)と、人の構造に影響を及ぼす外因的なリズム(外的リズム)の両方があることを説明している【注1】。
研究によれば、生体リズムは人生を通して変化することが示されている。あるリズムは胎児期からすでに存在していて、別のリズムは思春期になって初めて現れ、また多くのリズムは老年期に入って変化する。こんなリズムを同期させることができる環境のサイクル(光・気温・日常の変化など)も、人生の各段階において同じように影響力を持ち続けるわけではない。
同様に、人のリズムは、周囲の環境によって深く影響を受ける。たとえば、仕事のスケジュールや友人と過ごす時間など、生活の組み立て方そのものが、身体の反応に直接影響を与え、人の健康やバランスに作用する。
また、人間の身体には柔軟性(可塑性)がある。でも、その柔軟性にも限界があり、たとえば夜勤のような生活に完全に適応することはできない。
人はしばしば、変化には簡単に順応できる、多少の不規則さは問題ないと信じがち。でも、今日ではそれが必ずしも正しくないことが明らかになっている。多くの研究がすでに示しているように、不規則な勤務形態や生活リズムは、健康に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、その点に注意を払う必要がある。
時間的不調和(クロノデザジュステ)
人の身体と心は、それぞれに固有のリズムに従っていて、そのリズムは自然と深くつながっている。でも、人がこの生物学的なリズムの拍子から逸脱したとき、その代償として現れるのが、睡眠障害、慢性的な疲労、ストレス、そして健康問題。
心理学者マイケル・ブレウス(Breus)が示すように、テクノロジーと内的リズムの間に生じたズレは、科学者たちの間で「生物時計の乱れ(クロノディスラプション)」と呼ばれています。これは単なる生理的な問題ではなく、ますます加速する現代社会が、人に絶え間ない生産を求めるという文化的背景とも深く関わっている。
たとえば、うつ病(単極性うつ病)は、身体のリズムの変化と関係していることがわかっている。自身のリズムと調和している身体は、肉体的、感情的な挑戦にもよりよく対応できる傾向があり、このような調和は、感染症やその他の身体的プロセスへの対応においても影響を及ぼす可能性があるという証拠がいくつもある。
また、夜間勤務は、消化性潰瘍、乳がん、睡眠時無呼吸症候群など、さまざまな病気を引き起こす可能性がある。いくつかの研究【注2】によると、夜勤はがん発症における重要なリスク要因のひとつとされている。
時間というものは、自分たちが何者であるか、何を感じているかをも貫いている存在。
パフォーマンス社会
哲学者ビョン=チュル・ハンは、その著書『疲労社会(Sociedade do Cansaço)』の中で、わたしたちがどのようにして自らを監視する存在になっていったのかを考察している。かつて、仕事は固定された時間によって管理されていたけれど、今や仕事のためにであれ、周囲に溢れる過剰な刺激のためであれ、常に応答可能な状態にあることを求められているように感じている。
ハンがパフォーマンス社会と呼ぶこの現代社会においては、仕事と私生活の間に明確な境界は存在しなくなっている。厳格なルールと外部からの管理による規律型モデルは消え、自己管理というロジックが主流となり、各個人が自らの生産性の責任を負うようになった。
壁も、監督者も、タイムカードもない。でも、成果を出すよう求めるプレッシャーは依然として存在し、今度はそれが内側からやってくる。自由という理想の中に、もっと良くなければ、もっと効率的に、もっと生産的にといった要求が溶け込んでいる。
かつては外部から課せられていた義務は、今では内なる衝動として、わたしたちを止まることなく動かし続けています。もはや他人に見張られているわけではなく、自分自身の見張り役となり、数値、目標、そしてまだ十分ではないという感覚に突き動かされている。
わたしたちが自分は疲れを知らない機械であると信じようとすることは、ある意味、自らの生物としての性質を否定する行為でもある。この幻想は、なによりも超資本主義(ハイパーキャピタリズム)の産物と言える。
人間の脳は、クリエイティブでアイデアに満ちているからこそ、自然のリズムを無視しても生きていけると思い込ませるパワーもある。でも、その無理は、確実に代償として跳ね返ってくる。
生物学的なスケジュールを整える
ジェニファー・アッカーマンは、アメリカの作家で、30年以上にわたり科学、自然、健康について執筆してきた。
彼女の研究の多くは鳥類、特にフクロウに焦点を当てているけれど、人間の生物学についても関心を持ち、人間と他の生物の遺伝的共通性、すべての生き物を結ぶDNAという長い糸についても探求している。
彼女の著書『愛する、眠る、食べる、飲む、夢見る─あなたの身体の24時間』では、科学的研究に基づいて、人体の1日の旅をシミュレーションしている。
「わたしたちのほとんどは、自分を頭で生きる生き物と思っている。つまり、思考によって動かされていると感じているの。でも、実際には、脳の下部で動かされていることがほとんど。つまり、体の中に潜む不思議な浮き沈み、危機、そして勝利によって動かされているということ。そのことに気づいていない。血圧、ホルモンレベル、食欲といった体の繊細なリズムを、ほとんど意識していないの。でも、こうしたリズムのおかげで、原稿を読み返したり、意思決定をしたりするのに良い時間帯と悪い時間帯が生まれる」— ジェニファー・アッカーマン(インタビューより)
この本の執筆中に得た知識に触れたことで、彼女はいくつかの生活習慣を見直すことになった。
「たとえば、会議を設定する時間など、活動の時間帯にもっと注意を払うようになった。また、自分の身体のニーズをより尊重するようになった。運動の習慣から昼寝の時間まで、大切にするようになったわ。」
生物リズムに合わせて暮らすために
ここでは、ジェニファー・アッカーマンの著書をもとにした、人の身体の24時間についてのいくつかの考察を紹介するよ。
朝:目覚めたばかりの時間
– 目が覚めてすぐは、数分間はヒプノポンピック状態(覚醒移行状態)。起き上がるとふらついたり、ぼんやりしたりするのはこの睡眠慣性のせい。多くの人にとってこれは10分程度で消えますが、数時間続く人もいる。
– この時点では体温がまだ低い一方で、血圧は急激に上昇。また、ストレスホルモンであるコルチゾールが50%増加し、血流に乗って体全体へ送られ、1日の活動に備える。
– 血液中の血小板(止血成分)が多くなるため、血液が粘っこくなり、傷を負っても出血が少なく済む。一方で、心臓発作が最も多く起きるのもこの時間帯。
朝食タイム
– 朝食の前には、香りを楽しむことがおすすめ。味の75%は舌ではなく、匂いで感じ取っているから。口から鼻腔へと蒸気が流れ、嗅球へと届く。
脳のピークは午前中
– 脳のパフォーマンスが最も高まるのは午前中。起床後2時間半〜4時間の間に、集中力や作業効率がピークを迎える。
– ただし、記憶力は時間とともに低下。朝には5つほどの事柄を忘れますが、午後にはそれが14件に増加。夜になると、長期記憶に関わるタンパク質の活性が下がるため、徹夜で勉強するのは非効率的。
昼食と消化
– 昼食時、胃は1リットル以上に膨らむことができる。食べたものは数時間胃にとどまり、その後小腸へと送られる。
– 消化活動は私たちの意識とは無関係に進む。なぜなら、腸には「腸内神経系」と呼ばれる独立した神経系があり、栄養の感知・酸の調整・免疫機能の調整などすべてを担っているから。
昼過ぎの眠気(14時半ごろ)
– 14時半ごろ、昼食後に眠気やだるさがやってくる。これは、血糖値の上昇のあとにインスリンが大量に分泌され、エネルギーが一気に吸収されるために起こる、いわば「低血糖」状態。
– 面白いことに、食事をとらなくてもこの眠気は起こるとされ、体内の自然なリズムの一部。
夕方は筋トレのゴールデンタイム(16時半)
– トレーニングをするなら16:30前後が最適。研究によると、午後にトレーニングすると筋力が20%増しやすいとのこと。(朝は、バランス感覚や繊細な動作が必要な運動に向いています)
– 午後には疲労感が少なく、関節の柔軟性や呼吸機能も向上。体温が上がると、心拍数も上昇し、アスリートの世界記録の多くが15時〜20時の間に出されているのも納得。
お酒を飲むなら17〜18時
– 友人と飲むなら17〜18時がおすすめ。この時間帯は肝臓の解毒能力が高いため、アルコール代謝もスムーズ。
– ある研究によると、21時にウォッカを飲んだ人は、18時に飲んだ人よりも反応時間や認知機能が著しく低下したそう。
夜の営みは23時が最多
– セックスの時間帯として最も多いのは23時。でもこれは社会的なスケジュールの影響が大きい。
– 実際にはテストステロン値は朝8時がピーク。男性の精子の質は午後のほうが良いとされている。
– 女性の場合は時間帯の個人差が大きく、環境やパートナーの反応に左右されやすい傾向があります。これは男性中心の文化の影響でもある。
睡眠と夢
– 就寝時、松果体からメラトニンが分泌され、眠りが始まる。脳波はアルファ波からシータ波、そして深い眠りにはデルタ波へと移行。
– 子どもの場合、90%の骨の成長が睡眠中に起こるといわれている。
– REM睡眠中、脳は日中と同じくらい活発に働いている。夢はすべての睡眠段階で見ますが、REM中が最も鮮明で激しい。
– このとき、セロトニン、ヒスタミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質は抑制され、論理的思考や時間の感覚がオフになるため、奇妙な夢が生まれる。
– 人は毎晩1.5〜2時間ほど夢を見ており、生涯で約6年分を夢に費やしている計算になる。
真夜中と早朝
– 深夜、人の体は断続的に目を覚ます(マイクロ覚醒)。1晩に200〜1000回起こるとされ、ほとんどは自覚がない。
– 早朝4時半ごろ、体温が最も低くなる。そして数時間後にはまた、新しい1日が始まる。
著者:ジュリアナ・フロンコヴィアック
関心領域:エコロジー、健康、人種・ジェンダー平等
イラスト:ナタリア・グレゴリーニ
出典・参考資料
「生体リズムの発達:人間の一生を通じたタイミングシステムの形成と変化」 ルイス・メナ=バレット、ダニエラ・ウェイ サンパウロ大学 生物医科学研究所(USP, 2007年)
「発がんのリスク要因としての夜間労働」 (詳細は不明ですが、夜間勤務とがんの関連性を調査した研究)
『O Poder do Quando(いつが最適かの科学)』 マイケル・ブレウス博士著 https://pt.scribd.com/document/499718052/O-Poder-do-Quando-Dr-Michael-Breus
概日リズム(Circadian Rhythms)についての事実シート(英語) 米国国立総合医学科学研究所(NIGMS) https://nigms.nih.gov/education/fact-sheets/Pages/circadian-rhythms.aspx
「生体リズム」 シルヴィア M. N. サンパウロ州立大学 ボツカツ校 生理学部(2011年) https://www1.ibb.unesp.br/Home/Departamentos/Fisiologia/Neuro/15ritmos_biologicos.pdf
「クロノバイオロジー:1日の中で最適な活動時間を知る」 フレデリコ・ロボ氏による記事 http://ecodebate.com.br/2012/04/17/cronobiologia-conheca-as-horas-mais-propicias-pra-cada-atividade-no-seu-dia-a-dia-artigo-de-frederico-lobo/
「ジェニファー・アッカーマン、フクロウの知識を明かす」 インタビュー記事(英語) https://www.bookpage.com/interviews/jennifer-ackerman-interview-what-an-owl-knows/
「過去のスティーブ・ジョブズ」、エジソンは発明で巨万の富を築いた https://www.terra.com.br/economia/meu-negocio/steve-jobs-do-past-thomas-edison-lucrou-com-invencoes,73c55ac877f88410VgnVCM20000099cceb0aRCRD.html?utm_source=clipboard

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